皆さんは、猫は賢い生き物だと思いますか?
愛くるしい顔で人を魅了する姿は、猫好きにはたまらないですよね!
ただし、賢いか?と言われると、人によって意見は様々。
自分勝手に行動するし、人の言うことはちゃんと聞かないし……。
一般的に賢いと言われる犬と比較されることも多い猫。
しかし私は
「猫はとても賢い生き物だ!」
と声を大にして言えます。
何故なら、
「猫って人間が思っているよりも賢い生き物かもしれない」
と思える場面を、たくさんこの目で見てきたからです。
今回は一匹の賢い猫のエピソードを紹介します。
黒猫サクラとの出会い
私の両親は鹿児島県出身。
既に関西で働いていた父と地元で働いていた母は結婚したのち、父の働く関西で生活することになります。
母が私を妊娠してお腹の大きさが目立ってきた春、母は里帰り出産のために実家に帰ってきました。
桜が満開を迎える頃、縁側の椅子に座って外を眺めていた母は、家の庭に咲く桜の木の下で真っ黒い何かが動いていることに気が付きました。
かなりのど田舎で野生動物がよく出没する地域だったので、イノシシやサルの子どもだったら大変なことになると母は不安を感じましたが、恐る恐るその真っ黒の物体に近づいてみたのです。
そこにいたのは、真っ黒なメスの子猫でした。
辺りを見渡しても母猫や他の子猫の姿はありません。
いつか母猫が帰ってくることを信じて、そのまま家の中から見守っていた母。
しかし母猫が姿を現すことはなく、母はやわらかいご飯をあげて暖かい寝床を用意してあげることにしたのです。
するとすぐに母に懐き、ゴロゴロと喉を鳴らしながら甘える子猫。
祖父母は農家を営んでおり、ネズミの被害に頭を抱えていたことから、家でその子猫を飼うことに賛成しました。
後にその子猫は、桜の下で見つけたことにちなんで「サクラ」と名付けられます。
人の言葉が分かる猫サクラ
それから私が生まれたのは半年後の10月上旬。
その間サクラはすくすく成長し、たった半年ですっかり成猫になっていました。
誰が教えたわけでもないのに、どこからか変な虫やらネズミを狩ってきては、母や祖母の前にポトッと落としてその成果を見せに来ていたそう。
普通はそんな死にかけの生き物を目の前に持ってこられたら、ビックリしたり嫌な気持ちになると思います。
母は生まれたばかりの私が病気にならないようにとサクラから距離を置いていましたが、祖母は嫌な顔一つせず狩りの上手なサクラのことを褒めていたようです。
「猫の狩り本能ってのはすごいねぇ。」
そう言ってよしよしとサクラの頭をなでていた祖母。
すると、サクラは定期的に何か獲物を捕ってきては、祖母だけに見せるようになったそうです。
私が生まれて3か月、正月を過ぎた頃に母と私は父のいる関西に帰ることになります。
「次は夏に帰ってくるねー!お家の番しっかりしててね!」
と、母はサクラに挨拶をしました。
すると、
「ニャーン」
と一言返事をして、私たちが乗る車が見えなくなるまでずっと見送っていたそうです。
祖母が言うには、サクラには人間がとる行動の意味が分かっているんだとか。
しばらく帰ってこないこともサクラには伝わっていて、名残惜しんでいるように見えたというのです。
そうして半年後の夏、父の仕事がお盆休みに入りサクラのいる田舎へ遊びに行くことに。
すると家の前にある坂の上から、サクラがじっと私たちの乗る車が来るのを見ていたそう。
そして車が近づくとスッと家の中に入っていき、代わりに祖母が家の中から出てきました。
祖母が、
「サクラは賢いからねぇ、皆が帰ってきたら教えてねって言ったら教えてくれるのよ!」
と母たちに言いました。
半年ぶりに会う母のことはしっかり覚えていてゴロゴロすり寄っていたみたいですが、初めて会う父のことは「お前誰だ!」と言わんばかりに警戒していました。
しかし母が、
「この人は危なくないよー、優しい人だよー!」
とサクラに言うと、サクラはスリスリと自分のニオイを擦り付けて、“こいつは大丈夫なヤツ”というマーキングをしていたのだとか。
「サクラは良い人と悪い人を見分けられるんだよ!お隣の意地悪なおじさんにはずっと威嚇してるもの(笑)」
と祖父母のことを悪く言う近所の猫嫌いおじさんとの出来事を、祖母は面白く話していました。
私は幼すぎて記憶にありませんが、後々このような話を母から聞くと、「人の言葉を理解しているんじゃないか?」と感じずにはいられません。
サクラに命を救われる
私は一度、サクラに命を救われた出来事がありました。
これは私が5歳の夏に、田舎に遊びに行った時のこと。
その年は、例年以上にマムシの数が増えているので注意してくださいと言う警告が町内アナウンスでされていました。
なので家族は、家の中で川のせせらぎを聞きながらゆっくりと世間話をしながら過ごしていました。
しかし、私は違いました。
私は普段から好奇心旺盛で、普段見慣れない大自然を前にじっとしていられるわけがありませんでした。
裸足で家をこっそり抜け出し、家の裏手にある山から流れる湧き水をピチャピチャ触り、いつの間にか山に入る道の前まで来ていました。
そこで私がふと後ろを見ると、すぐ後ろでサクラが私についてきていました。
そして「ニャー!」と鳴きながら、私のズボンの裾を引っ張るようなしぐさをしていたのです。
この時私は、サクラがじゃれてきているのだと思っていました。
しかし今思えば、それはサクラなりの警告でした。
鈍感な私はサクラの警告に気付かず、山の中に足を踏み入れてしまいます。
そして、草木が風で揺れる音に呆気にとられていたその時!
突然、サクラが私の前に飛びつき、驚いた私は後ろに転んでしまいました。
そして、「シャー!!」と威嚇の声をあげながらサクラは草むらの中に消えていったのです。
飛びつかれた拍子で、両足にサクラのひっかき傷ができてしまい、私は泣きながら走って家に帰りました。
両親はビックリして私を叱り、祖母は普段人に危害を加えないサクラの行動に驚いていました。
「サクラになにかした?」
という祖母の言葉に、
「何もしていない。」
と答えた私でしたが、今になって思えば、あのカサカサと鳴っていた草むらにはマムシがいて、鈍感な私にサクラが「これ以上進んではいけない!」と警告し守ってくれたとしか考えられません。
その後サクラは祖母に叱られて、しばらく私の前に姿を見せてくれなかったのですが、
「せっかく守ってあげたのに理不尽に叱られた!」
と、サクラが感じてしまったのではないかと思いました。
「私のせいでゴメンね!」
と私がサクラに謝ると、私が関西に帰るまでの間ピッタリひっついて生活していて、まるでサクラに子守をされているようでした。
最期は桜の木の下で
私も成長し大学生になると、あまり田舎には遊びに行かなくなりました。
田舎のことを知るのは、電話で母たちが近況報告をしているのを耳にする時くらいです。
ある春の日、病気で寝たきりだった祖母が息を引き取ったという連絡が家に届きました。
大急ぎで鹿児島へ向かい、久々に祖父そして静かに眠る祖母に会いました。
瞬く間に葬儀が進み、すべての行事が終わって皆が一息入れていた時のこと。
なんの予感なのか家の軒下を覗くと、昨日まで元気だったサクラが冷たく横たわっていました。
私は、サクラが「気付いて!」という気持ちを私に飛ばしたんだと思いました。
「昨日まで元気だったのに」
と、そこにいる誰もが思ったでしょう。
とはいえ、サクラはその時もう20歳。猫にしては大往生です。
後日、私がサクラのお墓を作ってあげました。
それは、母が最初にサクラを見つけた桜の木の下です。
あれからもう10年以上も経ちますが、今ではその桜の木は、立派な花をつけると近所でも有名になっています。
今でも桜が咲くこの季節になると、猫好きな祖母と賢いサクラのことを思い出します。
kitsuneko22著
