動物の言葉
皆さんは、“動物の言葉”について考えたことはありますか?
人間は口から言葉を発したり、文字や絵で情報を共有したり、その他あらゆる方法を使ってコミュニケーションを図ることができますよね。
これって、人間だけに与えられた特別な能力なのか?と言われたらそんなことはありません。
どの動物もそれぞれ言葉を持っているし、時には体を使ってコミュニケーションを図っています。
身近な動物を挙げると犬や猫。
一度飼ったことがある人なら、彼らが様々なコミュニケーションを図っていることに気付くと思います。
人間と共生関係にあり、わりと似通った点も多い犬と猫。
一見、似たような動物だから言葉も似ているはず、と思うかもしれません。
しかし、実は彼らの言葉の中には意味が正反対になるものがあり、一緒に飼っているとその違いを目撃できることがあります。
今回は、一緒に飼ってみて分かった犬と猫の言葉の違いについて紹介したいと思います。
犬と猫の初対面
私は昔から動物が大好きで、猫を1匹飼っています。
名前はマロン。ソマリという猫種で、よく遊びよく寝る活発な男の子です。
のんびりとした生活を送っていたある日、私たちの家族に一匹の子犬ソラを迎え入れることになりました。
今まで他の生き物を見たことがなかったマロンは、元気に暴れまわる謎の生き物にビックリ仰天!
マロンは遠目から「なんだアイツは!?」と言わんばかりのまんまるお目目で新しい家族の子犬を見ていました。
一方、ソラのほうも猫のお兄さんの存在に気付いた様子で好奇心が溢れています。
この時、私は初めて犬と猫の正反対の意味を持つボディランゲージを目の当たりにしたのです。
ソラはとびきりの笑顔で、尻尾をブンブン振りながら耳を伏せてマロンに近づきます。
マロンの方はというと、尻尾をバタバタ振って耳を伏せながら高いところから子犬を睨みつけています。
尻尾を振って耳を伏せる……。一見同じしぐさに見えますが、犬と猫で全く違う意味のボディランゲージになります。
犬が尻尾を振るのは、嬉しい時や興奮した時。興味のあるものを見つけた時は低い位置で振る場合もあります。全体的に言えばポジティブな意味が多いです。
対して猫の場合は、イライラしている時や警戒している時といった、ネガティブな感情が表に出ている時です。
そしてこのような状況では、耳を伏せるという仕草にも大きな違いがあります。
犬の場合、「あなたに敵対心を持っていないよー!」という友好的な表現なのに対し、猫の場合は、「これ以上近づくな!!」というバリバリの警戒の表現です。
私はなんとなくですが、犬と猫の表現に違いがあることは知っていましたので、これがそうかぁと感心していたのですが、当の本人たちは必死で自分の感情を表現して言葉が嚙み合わないわけですから、ソワソワと落ち着かない気持ちになっていたはずです。
あまり近づけすぎるとお互いストレスが溜まってしまうので、犬と猫たちを別々の部屋に移して様子を見ることにしました。
我が家の犬と猫の初対面は、先に不安が残る結果となってしまいました。
噛み合わない言葉と共通の言葉
最悪の出会いから数か月。
さすがにこれだけ長い間同じ屋根の下で生活を共にすると、2匹ともお互いの存在に慣れて少しずつ距離が縮まってきました。
ただ、犬の言葉と猫の言葉が噛み合わないのは相変わらずでした。
そして、そんな2匹の間にある事件が起こります。
ある日、日向でお昼寝をしているマロンに、ソラが遊ぼうと尻尾を振りながら近寄っていきました。
めんどくさそうに尻尾を振り、その場でゴロンとお腹を見せるマロン。
するとそれを見たソラは、マロンに向かって飛び掛かりマウントを取ろうとしたのです!
猫がゴロンとお腹を見せるのは、相手を信頼している時。尻尾を振りながらだと「わかったわかった。」と少々めんどくさく感じている時です。
しかし犬の場合は、相手に服従するという意味になります。
つまりマロンがお腹を向けたことで、ソラは自分の方が立場が上だと思ってしまったのです。
子犬とはいえ急に飛び掛かられビックリしたマロンは、「シャー!!」と声を上げてソラの顔に猫パンチ!!乗りかかられていた体をいとも簡単にひっくり返してソラの上に乗り、ソラの首根っこに嚙みついたのです。
私はこの瞬間、ヤバい!!と思って2匹を止めようと思って近づきました。
しかし様子を見ていると、私はあることに気付きました。
ソラはキャン!と悲鳴を上げていましたが、マロンに噛まれて大人しくなり、マロンも本気で噛んでいるわけではない様子。
後にこれは、犬と猫に共通する上下関係の成立の瞬間だと知りました。
厳密には、猫は上下関係のある生き物ではありません。
しかし親猫が子猫に向かって同じ行動を取ることがあり、それは、「ちゃんと言うことを聞きなさい。」と親猫が子猫に諭しているのだとか。
そしてそれは犬の方も同じです。
犬はハッキリと上下関係のある生き物で、子犬の頃から親犬はそうやって犬社会のことを教え込むのだそうです。
今回のこの出来事で、ソラはマロンのことを「逆らってはいけない相手なんだ!」と学んだのでしょう。それ以降マロンに飛び掛かろうとはしなくなりました。
もしあの時私が止めに入っていたら、2匹の間に上下関係が生まれず、成犬になったソラがマロンに怪我をさせることもあったかもしれません。
とはいえ、これは運良く2匹の言葉が噛み合いお互いに理解できただけかもしれないので、このような場面を放っておくことはお勧めしません。しっかりと状況を見て判断するべきです。
2匹の間に生まれた新しい言葉
あれからもう7年。今ではすっかり仲良く生活しているマロンとソラ。
犬と猫を同時に飼っていて、どっちも本当に頭が良いなと思うのは、お互いに言葉が噛み合わないということを理解して行動しているということ。
付かず離れず絶妙な距離感を保ちながら、ケンカもなく平和に暮らしています。
そんなマロンとソラですが、長年一緒に暮らしてきた中で、この2匹だけの間に生まれたある言葉があります。
それは毎朝5時頃から始まります。
布団の中でスヤスヤ寝ている私は、突然やってくるお腹への重みと大きな声で目が覚めます。
「ニャーーーー!!」
眠い目をゆっくり開けると、私のお腹の上からじっと顔を覗くマロンの目が光っています!
「もうちょっと寝かせて……。」
ともう一度目を閉じようものなら、頬にバシバシと猫パンチが飛んできます。目覚まし時計よりもよく起きられる目覚ましです。
「わかった!起きるってば!」
無理やり起こされた後、近くで「フンフン」と息の音がするのでベッドの横を見ると、枕の真横でソラも私の顔を覗いていて、服の袖を引っ張ろうと口をパクパクさせています。
私が起きたことを確認した2匹が連れていく場所はキッチン。
そして2匹とも律義に自分の定位置に着席し、私が持ってくるご飯を同じ格好で待っているのです!
このように2匹はご飯をもらうために、毎朝素晴らしい連携力を発揮してくれます(笑)
言葉が通じないながらも、共通の目的のために独自の言葉と行動を築く犬と猫の頭の良さには本当に驚かされます。
ご飯を食べ終え毛づくろいをする2匹の後ろ姿から、
「今日もよくやった!」
というお互いのねぎらいの言葉が私にも聞こえてくる気がします(笑)
kitsuneko22-10著
